2022年下半期に聴いた音楽の話です。
上半期のまとめが思ったよりビュワー数が伸びて(当社比)、好評?だったっぽいので、味をしめて今回もやります。というのはジョークで、備忘録的なものです。
掘り方的なものは上半期と大体一緒で、リスト数珠繋ぎとBandcampの新譜チェックがメインで、それに加えてTwitterで魅力的なレコメンド文で紹介されてる音楽もちょこちょこ聴きました。
今回も同じく、あんまり他の人の下半期話で出てきてない作品をなるべく紹介出来たらなと思ってます。逆張りじゃないです。
でも、年間ベスト的なやつは(Twitterでこっそりお気に入りユーザー認定している)4〜5人分くらいしか読んでないのでその辺は曖昧です。
これを読んだ人が「これもっと早く聴いておけばよかったな~」と思わせられれば気持ちいいです。
あと、めんどくさいので2022年のことを今年と呼びます。書いてるのは2023年です。
リンクは主にBandcampのURLを貼り付けています。
なるべく、読んでくれた人がお金を落としやすいようにね。
ちなみに私は、ウィッシュリストに追加して満足してるアルバムが結構あったので、記事書く前に買いました。恥ずかしい限りです。
前回と同じく、最初はMacroblankから。
前回のMacroblankの話で、Barber Beatsが他のVaperwaveサブジャンルと比べて、よりリアルな生活の中で聴かれているということを言っていました。それ自体は半年経った現在でも変わらないと思います。
そんなBarber Beats現行シーンの代表的な存在である、Macroblankが11月にリリースしたアルバムである『OCCULT』。これが凄かった。
これまでのMacroblank的(というか、一般的Barber Beats的)なサンプリングを軸にした作風はそのままに、「サンプリング・ビート」というキーワードの方向性をヒップホップ準拠のトリップホップから脱して、より地下臭のするダークでクールなテイストに変貌。
言ってしまえば、burialのようなブリストルサウンドっぽい。サンプリング使いもそんな感じ。
実際、Barber Beats自体がVaperwaveを背景に持ちつつ、そのクリエイティヴ特有の手の付けやすさが特徴でもあるので、いかようにも他ジャンルとの融合が可能ではあります。
例えば、今年の6月24日にブラジルのVaper関連レーベルからリリースされた『Selected Barber Beats』というBarber Beats初(?)のコンピ盤の一曲目は、世間的なBarber Beatsのイメージとは少し違うダークさのある重たいトラックでした。
これを担当したGODSPEED 音は比較的暗くて重いサウンドを志向する傾向にあって、エクスペリメンタル・ヒップホップのような感じのトラックが多め。
ただ、YouTube上での再生回数で言えば、GODSPEED 音はMacroblankよりも全然回ってないです。
非VaporオタクのBarber Beatsリスナーからはそういったチルではないサウンドはあまり相性が良くないためだと思います。
そんなチル・ヒップホップ系のリスナー層をごっそり集めていた(そして、今やBarber Beatsの代名詞的存在の)Macroblankが、今作の『OCCULT』のような生活臭のしない乾いたフロアに刺さる作品を作った、というのが面白いポイントなわけです。
今年のVapor関連でいうと、death's dynamic shroud(.wmv無し)の5年ぶりの新譜。Vektroidの年始リリース。新星・Flyby Uniformの名作。Future Funkレジェンドのマクロスやyung baeのリリース。『Winner's Circle』等の名作のフィジカルリイシュー、などなど、平常運転ながらもいろいろと動きのあった一年な気がしなくもないです。
Vapor関連と似ているようで似ていないNo Agreement界隈からも名盤がドロップ。
No Agreementを知らない人向けに簡単に説明すると、2020年頃から活動を始めた異色なネット音楽集団のことで、著名なメンバーだとCity Light Mosaic、Material Girl、Kaizo Slumber、bliss3three、Murrumurが在籍しています(あるいは、していました)。
そんなイケてるコレクティヴから2作紹介。
まずは、Neupink。
ネット音楽家らしくリリースペースは早めで、2022年だけで3作品を制作。
その中で10月28日にリリースされたNeupinkにとっては5枚目(2022年では2作目)になるフルアルバム『Melt Yourself Into the Flesh of Midnight』が素晴らしい出来でした。
音楽性の特徴はジャギジャギのノイジーなシンセやギターのサウンドと、時折り現れる透き通るようなピアノの不釣り合いな振動。規則性と不規則性の間で鳴るバキバキのドラムの暴力性を作品の軸にしながらも、寒空の星みたいに散りばめられたノスタルジーのカケラ達がずっと鼓膜をつついてくる繊細な荒々しさは、暴風雨で休校になったあの日にテレビゲームをやってるあの感覚に近いです。
誰しもが感じるノスさ(ノスタルジーな感覚のこと)では無いはずなのに、誰もがノスく感じちゃうような存在しない記憶を呼び起こす激情感は天下一品では?
そういった作風なだけに死角を突いてくるポイントも多々あったりしました。
最終的に作品が持つ意匠がデジタルハードコアにまとまっていていることで、ハードコアパンクな構成を強く感じ、かなりメロコアに近い(言ってしまえばこれもポップパンクリバイバル?)んですけど、ノイジーな多層構造のギターアンサンブルが作用して、シューゲイズ的な見解もできます(意外とシューゲとメロコアって音楽性で言えば近い関係なのかなという気づき)。
陶酔したシューゲイズと疾走するメロコアの中間にいるのがこんなアルバムなのでは?と思ったり。
しかし、Neupinkは昨年リリースした『SEAWEED JESUS』が結構な話題性があり、Spotifyでは「SEAWEED JESUS」内の2曲が20万再生超えなのにも関わらず、いまいち名前を聞かないところを見ると、まだまだ知られていないようでもったいないなという気持ちになります。
続いて、Astrophysics。
インターネット音楽の特大産地、ブラジルはリオから。
Astrophysicsに関しては、私より明るいひとが大勢いると思うので軽く。
Astrophysicsは『Komm, susser Tod』のシンセウェイヴカバーが有名だったりします。
皆さんはすでにAstrophysicsの楽曲を全て視聴済みだと思いますけども、初期はシンセウェイヴを主に制作。YouTubeチャンネルでは現在までで174本の作品が確認できます。
そこから徐々にブレイクやドラムンベースと混ざり合って、現在のスタイルに確立されていきます。
シンセウェイヴサウンドを得意とすることもあり、トランス的なアプローチよりももっとアンバランスで刺激的なセンチメンタルさを持ったドラムンベースに発展。
2021年9月3日にリリースされた『Cute Tragedies』は、同郷のMINTTT、コレクティヴメイトのNeupink、その他にNANORAYやDJ Kuronekoらと共に完成度の高い傑作となりました。
astrophysicsbrazil.bandcamp.com
今年の4月1日には、カバーアルバム『The First Sound and The Future Past』をリリース。
astrophysicsbrazil.bandcamp.com
初音ミクを用いて(Astrophysics的には初音ミクとの共作のニュアンス)、自身のバックグラウンドにある名曲を得意のシンセで表現。
これまでのシンセウェイヴリミックス楽曲からはイマイチ分かるようで分からなかった、Astrophysicsの根っこにある音楽性を理解できる素晴らしい内容で、点と点がつながる感覚になりました(Astrophysicsは自身でニューウェイヴやポストパンクからの影響を公言はしている)。
というのを、念頭において11月8日リリースの『HOPE LEFT ME』を聴くと、ぐっと世界観が広がるような気がします。
astrophysicsbrazil.bandcamp.com
ゴスいダークなイントロで幕を開け、80sチックなニューウェイヴなサウンドの2曲目。そこからはドラムンベースを含む、さまざまなアプローチで音楽を奏でていきます。
もはや、ニューウェイヴサウンドリバイバルの結実とも言っちゃってもいいのかも。
M9と続くM10の流れが最高です。最高。
宇宙(?)繋がりで日本の宅録アーティスト、cosmomuleに。
cosmomuleは昨年2月5日に1stEP『発光』をリリース。そして、名曲である表題曲『発光』を生み出した国内で最も注目すべきアーティストの一人。
さらに、今年の10月26日に2ndEP『静止軌道上のあなたへ』が発売されました。
この作品に収録されている客演にmekakusheを招いた『不協和音のわたしたち』がものっすごい名曲。必聴。
(ちなみに、2021年にmekakusheがcosmomuleをレコメンドしてます)。
EP全体を通して、とにかくメロが良い。
サウンドのデザインもそれを決して邪魔をしないけど、かといって凡庸なわけでもなく、発想力の多彩さがはっきり分かります。影響にCorneliusを挙げていることも深く頷ける。
サラッと、そしてザラっとしたアコギとキラっとしたエレクトロ。たまに入るグリッチのさり気ない気持ちのよさ。
UFOの現れる時みたいな浮遊感のある不思議な電子音も愛らしくて、グッときます。
ホラーチックに想起しちゃうようなゴワゴワSF音じゃなくて、人懐っこい宇宙人と地球人の交流を描いたSF漫画なような、そんなイメージ。
詩も良いです(ていうか、全部良い)。
M2の『懐胎詩』が気に入っていて、特にラスサビ。
「懐胎した君の匂いをなぞって海の底 止めて 耳を澄まして そして、僕は今、天に歌う。」
ラブソング(として私は解釈しました)にしては珍しい表現の仕方で、なるほど・・・といった感じに。
フルカワミキと共演してほしいです。
連続して国産。
気鋭のラッパー、Rinsagaの新譜について。
7月28日にリリースされたアルバム『SAGA』は2020年に発表されたEP以来の新作。
変わらず鋭利さを保ったソリッドに刻まれるラップに心を打たれつつ、アシッドなダークさとスリリングを掛け合わせたトラックに心を揺さぶれる異質な出来。
Rinsagaの語る影響の中では、やはりNINのエッセンスを強く感じます。
ハスリングなアプローチのヒップホップとは少し違う、もっと鮮やかなモノクロで繰り広げられる音世界は、まるで社会から不当な扱いを受ける者たちが集まる廃工場のレイヴを想起。
ポストパンクの影響もあり、ポストパンクからゴスに転じたサウンドスケープも展開。
オルタナやエモの潮流以外にも、そういったポストパンクやインダストリアルロックなどからアクセスできるエモラップになっています。
Sagaというタイトル通り、作中で歌われる言葉たちはサガであって、そしてそれはヒップホップでもあるわけです。
だからこそ、選ばれた言葉が光って刺さる刃物のようになります。
また、勝手ながらボーカリングやサウンドにhideの遺伝子を感じるところもあったり。
もし、hideがあの音楽性でよりダークに、さらに現行のヒップホップシーンに影響を受けたりしたらRinsagaと近しい表現にたどり着いていたかも...と。
国内外問わず、ヒップホップの活気のあるシーンとは程遠い私ですが、ライブ観たい!と素直に感じるアーティストでした。
次はJAK3/Trashman。
元々、クラウドラップゴールデンエラ以降のアーティストの中ではかなり好きな方で、どの作品もお気に入り。
初期はグラグラと不安定で不気味な音の層にエフェクトがかったビートが特徴的で、そこにモタっとしたラップが乗ってるようなスタイル。
リリースを続ける毎に、そこから徐々にビート感が薄まっていき、代わりにより不気味だったり、抽象的な音のイメージが目立つように。
特に2020年にリリースされた3枚のアルバム辺りから現在まで続く流れが生まれていて、自身のbandcampアカウントからリリースされるアルバムに付与されたタグ(ジャンル)には、2021年以降の作品から「hip hop」が無くなっています。
そんなJak3は、11月4日に新作『tied up in GOD'S hands』をドロップ。
それこそbandcampでのアルバムに付けられたタグの数はこれまでよりも少なくなってます。
オープニングトラックは不穏なサックスの響きと惑うシンセの共鳴にアンニュイなボーカルが、いかにもヒプナゴジックなテクスチャーで構成されています。
ジャジーな素材をこういう気持ちの悪い印象に投影させるという感覚が私にはあまりありませんでした。
続いて、酩酊する朝4時の具合の悪さのままM2に入り、妙に目立つピアノのサンプルのメロディの刺激。これが案外心地よいのです。
Vapor文脈で解釈すると、VaporwaveというよりかはDreampunk的なアンビエンスを感じます。
オープニングトラック以外にも、サックスの音が多く使われていて、前述のように単純なジャジーさとしてではなく、不協和音な異質さとして機能しています。
M9の『Without Words』は、主軸にアコースティックギターが置かれ、趣味の悪い童話にアシッドフォークを振りかけたような特徴があったり、フィールドレコーディング×オーケストラル×奇怪な電子音がセッションするM16『I'm Slipping』など、一辺倒なヒプナゴジックではない表現の多さに圧倒されます。
また、以前からbandcampのタグには「devotional music」の文字があります。
私は耳が良くないのでリリックは聴き取れませんが、そういう要素もあるのかな...?
今作のジャケもそんなオーラがあるし...
今年初めて知ったアーティストだと、ロンドンを拠点に活動するcoded oxygenが良内容でした。
coded oxygenはMonkey & The Permavirginsというコレクティヴのメンバーであり、前出のNo Agreementと同じくオンライン(discordサーバーなど)で結成されたバンドとのことで、見たところ10代のメンバーが多いみたい。
(Monkey & The Perma virginsはオリジナルアルバムを2月にリリースしていて、そちらも良作なので是非。)
coded oxygenは、今年2枚のアルバムをリリース。
そのうち、11月9日リリースの2枚目『Nearly Midnight』を紹介。
ジャンルとしては、ローファイがかったインディーフォーク、フォークトロニカ、シューゲイズ。
そこにエレクトロな要素が加わったニューゲイズ的なサウンドになっています。
前作の「Woods」では、よりインターネットシーン以降のシューゲイズ、いわばParannoul的なグリッチが使われていたりもしました。
今作では、そういったネット音楽のようなイメージは薄くなり、自身の持ち味を最大限に活かした内容(もちろん、前作も良かった)。
全体的にBPMは遅く、ゆったりとした時間が流れていて、不思議なローファイ加減の牧歌的な雰囲気からはNeutral Milk HotelらのElephant 6の影響を感じます。
フォークトロニカなサラッとした電子音やサウンドエフェクトのおかげもあり、メランコリーな調子と可愛げのあるポップさが両立されていて、聴き心地の良い軽快さ。2020年代的でありながらも、どこか懐かしさもあるような、時間に左右されない魅力を持っています。
個人的には音のテクスチャーによる空間のようなモノを強く感じる部分があります。
例えば、シューゲイズなサウンドだったら「遠く」だったり、ローファイなサウンドだったら「近く」だったり、アコギからは「広い、あるいは狭い」みたいな。
一枚を通して、空間の拡張と収縮を繰り返す楽曲群に注目して聴いてみれば面白いかもと思います。
Neutral Milk Hotel以外にも、PixiesやRideなど他の90年代オルタナティブからの潮流を感じる部分があり、まずはそういった音楽のファンダムなんだろうなというイメージを持ち、我々と一緒じゃん!という共感性もあったり。
今年知ったアーティストでもう一人。
FREE.99というギリシャのアーティスト。
どういう経緯で知ったかは覚えてないんですけども、今年のEP『OUT FOR BLOOD』の内容があまりにも良くて衝撃でした。
つんのめってくるビットクラッシュした過激で破壊的衝動で暴れ回るポストインダストリアル。
ATARI TEENAGE RIOTの疾走感を手にしたMinistryの異質な過剰さを、さらにhyperな意匠で強引に組み上げたようなアシッドな世界観。
そして、それに覆われるエモーションを叫ぶボーカル。
もはや、様式美的な魅力もありつつ、オーバードーズする創造性に圧巻されました。
ニヒリズムと退廃性を持つ歌詞世界も独特。
異常な狂気を纏ったワードの羅列は、リスニング力もなく読解力もない私では十分に理解出来ないですが、かなり強烈です。
また、M1のフックやM3のブリッジが妙にメロディアスな響きを持っていたり、M2やM5のようにハードコアとしてユニークで完成度の高い楽曲があったりと、過剰さに重心を置きすぎないところもあるように感じました。
以上、2020年下半期のまとめでした。
2020年全体のベストは後ほど、このブログかnoteのどちらかに投稿するかと思いますので、よろしければ。