今日、考えていたこと。vol.3「観客席のはしの方で」

早くも3回目に到達(3回目ぐらいじゃ言わないだろうけど)。

言葉通りの三日坊主になりそうなことを予感しています。

 

そんな中、友人から連絡が来た。

Netflixである映画が配信開始したという話だった。

それは、2020年に公開された「アルプススタンドのはしの方」。

嬉しかった、まだこの作品に触れられるのかと。

 

何故、そこまで嬉しかったか。

この作品は、元は高校演劇の舞台で上演されたもので、全国大会で最優秀賞(つまり、1位!)を受賞した作品であり、私のなかの大切な作品でもあったからです。

ということで、今回はこの作品について、話させていただきたい。

 

私はこの作品をリアルタイムで、会場で見ました。

そう、当時の高校演劇の祭典、高文祭の全国大会の会場で、だ。

 

これに関して、過去にツイートしたことがあり(既に削除したが)、もしかしたら、それを見たことがある人がいるかもしれないが、私はその年の全国大会の運営サイドで動いていたのです。

その辺については、あまりに詳細に書きすぎると、ごく少数の人から特定される可能性もありそうなので、詳しいことは伏せさせていただきますが、私も高校生時代に演劇部に所属し、その縁での活動でした。

 

蒸し暑い夏の頃だったと思う。

 

高校演劇に馴染みがない人は多いだろし、ほとんど知らない人ばかりだと思いますが、すっごいんですよ、高校演劇って。

もちろん、全国大会にまで行くレベルの高校だからそれなりに凄いのだろう、みたいなのも分かるとやんわりと思うんですけど。

 

ざっくりと高校演劇ってこういうもの、と言うのを説明します。

まず、高校演劇とその他演劇の違いははっきりとは存在しなくて、高校生が演じるかそれ以外か、だけ。

高校野球と一緒です。誰がやるかだけ。

 

ただ、体感的にはちゃんと違いがあるんですよ。

 

例えば、設定の部分。

やたらと高校が舞台だったり、高校生が話のメインだったりする(ちなみに、私は高校生役しかやった事ないです)。

全てでは無いにしても、高校演劇の台本って、創作が多くて、やはり、高校生の言いたい事って高校生だから言える物だったりして、だからこそ、高校生が高校生を演じるんだと思うんです。

 

台本のテーマ自体も、その他の演劇とは違う部分。

その年か、その前年に台本を書き、制作していくため、時勢などが反映されやすいんです。

私は東北でしたが、時期的に震災をテーマにした内容が多かったです。

「アルプススタンドのはしの方」も、原作者である顧問の母校が甲子園出場となったから、らしいですし。

 

他には、制作費の都合。

全国常連校や、力を入れてる高校ならまだしも、普通の高校の演劇部は大体、お金が無いです。

だって、野球部とかサッカー部とか、その学校で一番強い運動部に部費は割かれますから。

だから、少ない予算をやりくりして、アイデアを出して作る。

テレ東深夜と一緒なわけですよ。

 

あと、部員が少なめがち。

理由も部費と話と一緒で、人気が無いから。

 

そんな環境の中で、部員全員で頭を悩ませながら、試行錯誤し、地区大会でのたった一回しか上演されない可能性も抱えながら、作るわけなんです。

 

「アルプススタンドのはしの方」もそうだった気がします。

確か部員は1桁くらい。

強い学校は4〜50人は軽く超えるんですよ。

だけど、そんな不利な状況でも勝ち上がって優勝した。そういう作品だったんです。

 

その年の出場校は確か、12校。

どの学校も良かった本当に面白かった記憶があります。

 

でも、「アルプススタンドのはしの方」は群を抜いていた。

笑いどころでは会場が揺れていたし、グッと来るようなシーンでは心地よい涙を流させてくれました。

 

思春期には誰にでも襲いかかる、自分と他者の間にあるモヤモヤを、熱狂する甲子園球場の端の端で汗臭く、美しく描いた。

他人から見たらくだらないようなイラつきを、心にブッ刺してきたんです。

 

私は役者もやりつつ、メインは演出家で、それなりに自分の中の演劇論というか、演出論を持ってるんですよ。

でも、何も言えなくなった。

圧倒されて、「良かった」とか「凄かった」しか言えなくなっちゃいました。

 

そして、この瞬間にしか残されない、生きられない高校演劇の儚さに対して悲しくもなったんですよね。演者は高校生なので、同じキャストの舞台は有限なんです。

この気持ちは、心の中の散らかった部屋に飾っておくことしかできないのかと。

 

でも、映画になった。

多分、高校演劇が原作の映画は史上初。

そして、結構ヒットした(はず)。

多くの人に高校演劇を知ってもらえることに繋がったと思う。

 

先に書いた通り、高校演劇は有限。

たった1〜2年で同じものは見れなくなる。

それを、多くの人の心に刻む機会が増えたって事なんです。

だから、今しか無い瞬間をみんなに見に行ってみてほしいです。

 

高校演劇出身の著名人はいるんですけど、かなり少なくて、つまり、みんな辞めちゃう。高校で。

ね。もったいないでしょ。

素人だけど、誰よりも素晴らしい役者がすぐに消えちゃうって。

 

見に行ってみようよ、みんな。

 

ちなみに、私は運営の立場で見てたので、観客席のど真ん中で見てました。

タイトルはちょっとした嘘です。