2023年上半期音楽ベストのまとめです。
例年より数は聴いてないかもしれないです。
Rate Your Musicのリスト機能で管理してるんですけど、(入れ忘れもあるけど)去年の半分しかリストに入ってないんですよね。
去年と比べると、そこまで強くブッ刺さったアルバムをそこまで掴めてない感じ。
(好きな表現じゃないけど)豊作だったのが2022だったのかな、とも思ったり。
でも、ちゃんと良かったのも言わずもがないっぱいありました。
リスニングの傾向として、ロックジャンル方面のリスニングは減って、クラブミュージック関係が増えた気がします。
5th wave emoとかメロコアとかを聴く理由として、割と直感的で短絡的な快楽を求めている部分があって、そういう成分をバンドサウンドからじゃなくて、ブレイクビーツとか四つ打ちにちょっと移った、みたいな気がする。
もちろん、どっちも聴くけども。
あと、クラブミュージック系の特色として、空間とか色彩とか空気感を想起させる力が強いという考えがあって、そういうニュアンスの感覚を求めていることが多いのが今年の上半期かも。
前までは繋げて描いてたんですけど、今回は作品ごとに分けて書きます。めんどくさくなったので。
ていうことで、以下本文。
国内
帯化『御池糖自治』
帯化は、これまでのディスコグラフィで一貫した美学めいたものを常に持ちつつも、表現方法(例えばジャンル的手法とか)を変えながらクリエイティブしている印象でした。
表面の音楽的な表現方法だけでいえば、1st『擬似縁側型ステルス』は、60sサイケデリックロックをベースにし、現代的な生々しさとそれに反するような野生の音像を同居。
2nd『河原結社』では、より身体的で肉体的な雰囲気に近づくパーカスを使用していて、なおかつコード感の様子からはアシッド・フォークな響きを感じさせている。
つまり、現在のロックシーンの中でも、"Jap Rock Sumpler "的な史観で語ることができるのが帯化だと思います(勿論、無理にそういった枠に組み込む必要性も無いけど)。
2月8日にリリースされた3rdアルバムの『御池塘自治』。今作では、これまでの作風に加えて、オルタナティブなダイナミクスが増されたような気がします。
ブルージーな渇きとサイケな湿度の両立。これもある種のストーナーロックであると言ってもいいのかも。さらに、密教のような立ち込める麻の焼ける煙たさが、より深く聴者を蔦が這う樹海にある何かを見せるオーラ。
総決算、というわけでは無いけど、1st、2ndが送り出す血液が行きつく心臓のようなアルバムだと思います。
帯化の主催する造園計画の他のリリースも良くて、私が造園計画を知ったきっかけの大山田大山脈、アバンギャルドなインプロ集団の野流など、今後も注目していきたいです。
戦慄かなの『solitary』
これまで6曲の楽曲を発表していた戦慄かなのが、これまでの楽曲に新曲を加えたアルバム((戦慄かなの自体、世間的には聴かれている方の人だとは思うけど、あんまり言及されてなさそうなので)。
結構貪欲に色んな音楽を貪欲に吸収しまくってるアルバムだと思います。トラップを基にベースミュージック、ボルチモアクラブ、JPOP辺りが混ざりつつ、たまにオリエンタルなモチーフがあったり。
ほとんどの曲のコンポーザーがケンモチヒデフミということもあり、リズムの多様さがめちゃくちゃ面白い。
アルバムタイトルと同名のライブが開催されていて、それ前提のライブパフォーマンス向けのクリエイティブとも言えそうだし、その辺はアイドル的だなとも思ったり。
ただ、ライブパフォーマンス(=ダンス)を念頭に置いたダンスミュージックと言っても、戦慄かなのの声の良さは全然失われていないバランス感覚はしっかりあります。
戦慄かなのの声は、基本的にはかわいさはあるんだけど、ふととても冷たい響きをする時があって、そこの絶妙なバランスがとても魅力的。
電音部、yunomi『Full Moon』,『Change』
このブログを書いてるちょっと前に、電音部からyunomi作曲の曲が2週連続リリース。
最近のyunomiの音楽性がkawaii系の頃よりも、もっと有機的なサウンドが特徴で、幅も広がっているのが最近のyunomi。レイヤーも難解に聴こえるような曲が多い。それに反して歌詞には妙な空虚さを感じる空気感がずっとあるんですよね。てか、曲にも良い隙間(≒空虚)がある。
それはネガティブなニュアンスじゃなくて、空虚からの脱出とか、空虚ゆえの快感とか、そういうのもあったり。
そういうセンスの絶妙なクロス加減が魅力的だし、重要な気がする。
いむ電波.wav『Foundation System』
今年は例年よりいろんなライブ、現場に行けているんだけど、いむ電波.wavのパフォーマンスを見れたことが個人的には大きい出来事でした。
"今"のシーンの空気感みたいなのを代表する存在の一つだとすら思える。
EP以前のいむ電波.wavの楽曲は、ベクトルはどれも似たような所を向いていたけど、テイストはずっと違っていたような気がします。
Duvetカバーはノイジーでイーサリアル、電子にダイブしているようなグリッチ感。
b0rn us IntestellaはDuvetと同じようにイーサリアルさはありつつもビート感が強まっているように感じる。
Psychic Escapeは、より身体的なバンドサウンドになり、ボーカルの主張が強くなる。ボーカリストのπの魅力が大きく出ている。
今回のEPはカバー以外の既存2曲を含めた6曲がマルチネからのリリース。テイストの違うベクトルが一本の線になったような作品になっています。
その線は無論、一筆の直線ではなく、波形のようにカラーの強弱がしっかりと出ていて、安直な良い悪いだけではなくて、音の楽しさがちゃんとあるんですよね。
時代や世代の影響もある作品だろうけど、それだけではない時間や空間を越境した名作だと思います。
Emma Aibara『i don't know who i am』
同じく、今年見たライブで良かったのがEmma Aibara。元々、楽曲はよく聴いていて、どの曲もぶっささり。
多くが2022年に公開された楽曲だけど、EPが今年なので今年でカウントします。
エフェクトがかったボーカルに、シューゲイズとブレイクコアが混同したスタイルが基本。
手法としては既にあったとも言えるけど、ライブではバンドでそれを演っていたし、実際音源でも生っぽい感じがして、そこが新鮮。
空間系のギターが音楽の核となっているのはそうなんだけど、メロコアのようなメロディやフレーズが使われたり、ビートダウンする楽曲があったり、表現の手数があって、リスナー側も色んな乗り方ができるんですよね。括りとしては、5th wave emoとして語っていいと思うし、正当な形でその文脈で語られるならば、今後重要な存在になってもおかしくはないです。
ジャケが90年代のオルタナっぽい感じも個人的にはツボ。
Ray、代代代、クロスノエシス『ATMOSPHERE』
国内アイドルの中でも、音楽的に高い評価をされるグループである3組がリリースしたスプリットEPがなかなかの快作。
それぞれのグループ、コンポーザーによって作られた『ATMOSPHERE』という同名タイトルの3曲。シューゲイズ、グリッチポップ、エレクトロと全く違うスタイルでありながら、共鳴する空気感(=アトモスフィア)。
現行のアイドルソングを聴かない方々に対して、安直すぎるけど、アイドル音楽を価値観をアップデートさせるような珠玉の3曲だと思いますし、美学的な音楽に対する姿勢を持ったそれぞれのグループの楽曲を10分で楽しめます。お得。
Rayの『ATMOSPHERE』は、甘酸っぱくて爽快さが持ち味のギターの音色と5人の声のアンサンブルが上手く調和。フレーズの一つ一つに心が揺らぐし、シンガロングしたくなるフックもあります。アルバムをリリースする毎に高く評価されるRayの楽曲を凝縮したような、しかし、まだ表現されていなかったニッチなポイントを突いてくるような気もします。
代代代はディスコグラフィに多いような、アッパーめなデジタルハードコアの楽曲ではなく、静謐でシリアスなムードのサウンドスケープが広がる。ビートとシンセの印象が強く残りつつ、ボーカルの主張のバランスが保たれています。個人的にはPolygon Window的なIDMにハーモニーとグループの矜持が合わさったようなイメージ。
最後のクロスノエシスによる楽曲は、なだらかに瓦解していくカタルシスと緻密に構築される空間のダイナミズムがうまく作用している。
ループするサンプルの上で語られるボーカルに導かれるエモーショナルさ。
キラーフレーズで激情を誘うようなスタイルではないけれど、間違いなくクロスノエシスの武器を十二分に振るっている。
アルバムの構成もとてもよくて、聴き終わったあとの気持ちが良いし、もう一度再生ボタンを押したくなる気持ちにさせてくれる。
それぞれのグループが今年、すでにリリースがあるのでそちらの方も是非に。
海外
elliebell『epiphanies tore through』
(恐らく)15歳のベッドルームアーティスト、elliebellが4月にリリースしたアルバム『epiphanies tore through』は今年のベストの一つでした。
この曲が文字通りの序曲であるかのように、柔らかく丁寧なタッチのアコースティックギターでアルバムの幕を開ける。曲の終盤、手招くようなグリッチが透明感のあるボーカルとクロスフェード。
そして、曲が始まり、表情を変えた世界に飛び込む。
M5がフェイバリット。
エーテルなサウンドスケープとハッとするようなギターから始まります。ギターのフレーズは冷たく重たい表情だけど、刹那的に何か重要なものに変わるのではないかという潜在があり、その気持ちを連れたまま溶けるようにグリッチしていく。
5分を超えると一瞬ブレイクし、新たなメロディが聞こえてきて、季節が変わったことを知らせて、周期的なノイズと上空から響くようなアンビエントが混ざり合って、時間の流れの平等さを確かめる。
そして、10分を超えるトラックが終わった時にこの曲の要素たちが散り散りになって、また集合したのがこのアルバムなんだと気づきました。
サウンドのカラーに依存するような層の構築ではなく、すべての音が過不足なく必要なところで鳴っている。そういう丁寧さがあると思います。
影響としてはJane RemoverやAsian Glowあたりかも。より辿っていくと、Sweet Tripの流れも汲んでいる。hyperpopなアプローチはそこまで強くないためAsian Grow『Cull Ficle』の感覚と共鳴すると個人的には思っている。
また、メロディの馴染みやすさにyeuleを彷彿とさせる部分もあるかも。
elliebellは、今後こういったインディトロニカのシーンで重要な存在になっていくかもしれないし、あるいは今後一切の音沙汰が無くなるような雰囲気もある・・・
そんな希望も杞憂も抱いてしまう儚さを聴覚から感じさせてくると思います。
Opus Kink『My Eyes, Brother!』
ブライトン出身のバンド、Opus Kinkはもはや無視することはできないところまで来ているのかも。
2020年のデビュー以来、すでにこれまで2枚のEPをリリースし、新たなEP『My Eyes, Brother!』が今年5月に。
Opus Kinkの音楽性を端的に表現するのはとても難しい(彼ら曰く、ゴスサルサ。あるいは、チェンソーポップらしい)。
ファンクやジャズの影響がより色濃く出たポストパンク、というのが分かりやすいが、それ以外にフレンチポップ、スカ、ゴスなどの要素が様々な所で顔を出す。
4月リリースのシングル『Children』で私は鷲掴みにされたわけなんですけど、そのシングル3曲を含んだ7曲が今回のEP。
シンプルに音の圧力が凄い。
楽器ひとつひとつに明確な意思があって鳴らされているし、そういう意思の嵐の中でもごちゃ混ぜにならずに各々が自分自身のポジションをちゃんと意識している様子がある。
そんな中にもフレーズの各所に洒落た響きがあって、構成されている要素の味が活きているんですよね。
こういった音楽には、80年代からの水脈を探してしまうときがあるんですが、Opus Kinkにはどこか現代的、2020年代的な側面を見てしまう。
全ての曲、全ての小節においてそうであるというわけではないけど、例えばM2やM3の一部分には、デスクトップっぽい、グリッドっぽい構成を感じる。
それも含めて、インストゥルメントのちょっとしたモタつきだとか前のめりさにマジック的な緩急が生まれる。
単純明快なかっこよさの裏にある巧さがある。
他の知名度がある"2020年代的ポストパンク"バンドであるSquidやDry Cleaningなどと同じ評価の軸で、その上また違った楽しみ方ができるんですよね。
ポストパンクの未来はまだまだある。
Godcaster『Godcaster』
Pitchforkのレビューでも取り上げられていた今作。
ポストパンク、という話の流れではあるんだけど、演っている音楽としては別にポストパンクバンドというわけでもなく、どちらかと言うとアートパンク、ダンスパンク、インディーロックあたりの言葉が似合う気がする。
ただ、あまりにも取り入れる音楽が多様すぎるため、こういう音楽性のバンドだよ!と簡潔に紹介するのがちょっとムズい。
2020年にリリースされた1stアルバムでは、ダンサブルな要素が強く出ていて、なんならファンク直系みたいな曲もある(M1とかM11とか)。と、思いきやM2なんかは妙なイントロから始まって、ギターとフルートが同じリフを鳴らし始めて、セッションみたいなバイブスをかましたりする。いかにもインディーロックな心地良さがあるフレーズをそこら中で鳴らしたりもするわけです。
みたいな感じで、全体に実験的な要素があって、能動的に色んな要素をバシバシ吸収しているんだけど、根本的には聴いていてワクワクするし、楽しさがある良いバンド、っていうのが1stを聴いた印象。
持ち合わせていたポップセンスが作用しまくった結果、1stはそういう音楽的な多様性をどれだけ含んでいても、上手くまとめあげられていたんだと思います。
それで2nd。
再生ボタンを押すと、カウントの後に何かの危険信号みたいな終末感を醸し出す歪なアンサンブル。
前作はオープニングからファンク全開だったことを考えると、かなり異質というか、同じバンドのアルバムだとは中々信じられないような。
ただ、前述したような1stの内容の中にも、ジャキジャキに尖ったギターとか、脳天を突っついてくるドラマとか、エッジーな要素がめちゃくちゃあって、ちゃんと地続きになっているんですよね。
アートパンク、ダンスパンクというよりは、ガレージロックやサイケっぽい雰囲気も増した感じで、フレーズの強さが目立つ曲が多い印象。プログレっぼさもある。
それに加えてM4ではベッドルーム感のあるインディーポップだったり、イーサリアルで神秘的なフォークのM7もある。
このアルバム、基本は全然違うんですけど、どこかmy bloody valentineっぽいんですよね。Kevin Shieldsの美学っぽいところがあるというか。
MBVの系譜はシーンを見渡してもめちゃくちゃ広くて深いし、なんなら以降の全ての音楽に間接的に影響を与えていると思うんですけど、特にこのアルバムは太い線で繋がっている気がします。
Kevin ShieldsがMagazineで自身の哲学を反映させたら、みたいなアルバムかなーって思います。
Snõõper『Super Snõõper』
これも年間ベストクラスかも。
ストレートなパンクシーンも常に揺れ動いているみたいで、ナッシュビル出身のパンクバンド、Snõõperのデビューアルバム『Super Snõõper』は、米国だけではなく世界中のパンクシーンの中でも台風の目になる可能性を秘める傑作。
荒れ狂うDIYサウンドで爆走する破壊力のあるジャギーなガレージパンクは、先鋭的な美学とハイセンスなオリジナリティの化学反応。
パンク生誕から半世紀経った現在でもパンクミュージックに対して新鮮な気持ちを持ち込むことができることを証明してる。
地下の重くて鈍い空気を感じるベースライン。喚き散ったり飛び跳ねたりする予測不能なギター。高速で進むための原動力となるドラム。その上で叫び回るボーカル。
それぞれが東西南北を向いた結果、地球が一周して偶然にも同じ点を見ていた、みたいな感じ。
デモでのドラムはTR-808、TR-707で作られていたらしく、アルバムのところどころで機械的なビートが聴こえてくるところもポイントだと思います。
ラストトラックであり、唯一の2分以上(なんなら5分以上)の楽曲の『Running』は特にそれが顕著に出てます。
スタートは808から。ここで、これまでのアルバムの流れとは違うことにハッとさせられて、生のドラムへクロスフェードしていく。
ボーカルの隙に駆け込んでくる歪なカッティング。しかし、どこかそれすらも機械的に作用している。
着目すべきは、ボーカル。
これまで挑発的でバカバカしさを演出するようなスタイルから、同じ声色のまま見事にシニカルでニヒルに変わる感じ、めちゃくちゃ良いっす。
加速をやめる代わりに手にしたゴス&ナンセンスの世界の膨張。
これまでの純粋で奇天烈なガレージパンクとは、違うポストパンクの名曲が突然現れるし、この曲でバッサリとアルバムを締めくくる潔さ。
かのHenry Rollinsも高い評価をしており、「早く次のアルバムを聴かせてほしい」とまで言わせていたとかいないとからしいですよ。
『Music Website: Volume 1』
100%ElectronicaでリリースをしているVitesse Xが主催するレーベル、Music Websiteのコンピレーションアルバム。
Music Websiteについてはあまり詳しい事は調べられてないのでアレなんですけど、100% ElectronicaでリリースしてたVittese Xの立ち上げということもあって、音楽性が多様化してきた100%〜のリリースを、ヒプナゴジック、ヴェイパーとそれ以外に区別するためのサブレーベル的な立ち位置なのかなと想像(実際、今年の100%〜のリリースはGeorge Clantonのアルバムだけ)。
内容としては、ブレイクコア、ドリームポップ、ドラムンベースなどで、そこによりサイバー感とかエーテル感が増されている。そこが20年代の要素なのかも。
色んな角度でリバイバルを経由しつつ、新鮮味のあるエッセンスもあるし、レーベルのコンセプトを明確にする意味でのセルフタイトル的なこのコンピはめちゃくちゃ良い。
なんとなく感じるのはゲームとかのサントラっぽさで、例えば、竹間ジュンのボンバーマンのサントラが再評価(リアルタイムの評価が分からないので伝聞ではあるけど)されたり、Machine Girlが手掛けたインディーゲームのサントラが評価されたり、そういう傾向もあると思う。
余談ですけど、今年9月1日にリリースされたゲーム、『Bomb Rush Cyberfunk』なんかは完全にその流れで、グラフィックもPS2とかドリキャスあたりを意識しているし、サントラも上記の潮流(9月リリースだからあんまり触れるのも良くないけど)。
以上